2019年8月21日 更新

ポーランドの兵隊熊ヴォイテクの生涯!熊と人間の友情物語

ヴォイテクは大二次世界大戦中、ポーランドの兵士たちに拾われた熊です。成長したヴォイテクは軍務を助けるだけではなく、そのかわいい仕草や優しい心で兵士たちの心を支えてきました。不思議でおもしろく、そして感動的な熊と兵士たちの友情物語をご紹介しましょう。

熊の兵士?ヴォイテクの物語

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「熊の兵士」と聞くと、ディズニーアニメに登場するキャラクターかな?と思うかもしれません。兜と甲冑を身に着け、得意げにサーベルをかかげた太っちょの熊が頭に浮かぶかもしれません。

しかし、ヴォイテクはシリアヒグマという実在の熊です。シリアヒグマはヒグマより体が小さく、ベージュのような明るい毛色をしています。数は少ないですが、時々シリアやイラン、イラクの山の中で発見されることがあります。

ヴォイテクもイランで誕生し、数奇な運命を辿りポーランドの兵士たちと出会いました。兵士となったヴォイテクの生涯は、喜劇と悲劇が入り混じったドラマチックな舞台のようです。彼の一挙手一投足が兵士たちを喜ばせ、楽しませ、はらはらさせ、そして感動させました。熊と人とが戦場で育んだ友情物語をご紹介していきましょう。

ヴォイテクの意味

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ヴォイテクはポーランドの男性名「ヴォイチェフ」の愛称です。ヴォイチェフの元の意味が「戦士」、「兵士」であることから、ヴォイテクは「幸せな戦士」、「笑う兵士」というような意味を持つと言われています。

ヴォイチェフはポーランドでは一般的な名前で、同名の有名人にセリエA所属のサッカー選手、ヴォイチェフ・シュチェスニーや、作曲家のヴォイチェフ・キラールがいます。

ヴォイテク自身はイラン出身なので、「モハメッド」や「アリ」という名前の方がふさわしいようにも思われますが、故郷を追われ異国の地で戦いを続ける運命を背負うポーランド兵たちは、「ヴォイテク(幸せな戦士)」という名前に、戦争に勝利し、故郷ポーランドに帰りたいという切ない思いを込めたのかもしれません。

ヴォイテクの生い立ち

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ヴォイテクとポーランド兵たちとの出会いは、まさに奇跡とも言えるものでした。どのようにヴォイテクが彼らと出会い、成長していったかをご紹介しましょう。

親を失くしたヒグマの赤ちゃん

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ヴォイテクはイランのハマダーン付近で生まれたと考えられています。子供の時に母熊をハンターに殺され孤児となり、地元の少年に拾われました。

当時、孤児の熊はサーカスに売られるか、見世物になっていたようです。見世物のクマに踊りの芸をしこむときには、楽器を鳴らしながら熊を熱した鉄板の上に立たせます。熊は熱さに苦しみ、足を交互に上げて踊るような動作をします。

それを繰り返していると楽器の音を聞いただけでその動作をするようになり、「踊る熊」のできあがりというわけです。ヴォイテクは母熊を殺され、そのような悲惨な運命の中に放り込まれようとしていたのです。

ポーランド陸軍に引き取られる

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ヴォイテクは、ポーランドの難民に缶詰数個と引き換えに引き渡されました。しかし、弱って死にかけたヴォイテクを持て余した彼らは、ポーランド軍にヴォイテクを売りました。

ヴォイテクはスイスナイフやチョコレートと引き換えに、ポーランド兵の腕に抱かれることになりました。特にその中にいたピョートルは馬の世話が得意でした。ヴォイテクはピョートルに馬と同じように薄めたコンデンスミルクを与えられ、さらにウォッカの瓶で作った簡易哺乳瓶でミルクをもらい、段々と元気になっていきました。

兵士たちに大切に育てられる

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ヴォイテクを買ったポーランド兵たちは、イランにあるイギリス軍の宿営地で軍事訓練を受けた後、パレスチナまで物資を運ぶ道中でした。彼らはパレスチナにいる司令官にヴォイテクを飼う許可をもらえるよう、知恵を絞りました。

彼らが考えた方法は、ヴォイテクにウォッカ入りのミルクを与え、眠らせた状態で司令官に見せることでした。大人しく丸くなって眠るかわいい子熊を見れば、司令官の心も和らぐと考えたのです。
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ところがヴォイテクは眠るどころか酔っぱらって興奮し、司令官の手にかみついてしまいます。しかし、司令官はヴォイテクの強い気性と生きようとする意志に感嘆し、新兵として正式にポーランド軍に登録することを認めたと言われています。

こうしてヴォイテクはポーランド軍と共に生きることを許され、大切に育てられました。そのためヴォイテクは人が大好きで、寝るときはピョートルのベッドにもぐりこみ、彼の指をしゃぶりながら眠りについていたそうです。

調理場でおいしいものをねだったり、兵士たちとレスリングやサッカーをして遊んだりと、皆に愛されて、すくすくと育っていきました。

ヴォイテクと兵士たちの生活

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司令官の許可も得て、ポーランドの兵士たちと一緒に暮らせるようになったヴォイテクは、兵士たちの愛情を受けて元気いっぱい成長し、様々な事件を起こしては彼らを驚かせ、楽しませました。ヴォイテクと兵士たちが一体どのような生活をしていたのかご紹介していきましょう。

敬礼やレスリング遊びを教える

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ヴォイテクは兵士たちとの生活の中で、彼らの習慣を教えられたり、また自分でまねをしたりしました。ピーター・プレンディズという若い兵士は、ヴォイテクの「キーパー」に任命され、ヴォイテクに敬礼を教えました。

また、ヴォイテクは兵士たちとレスリングをするのが大好きでした。しかし、ヴォイテクが成長するに従い、兵士たちはヴォイテクに勝てなくなり、レスリングを嫌がるようになりました。すると、なんとヴォイテクはレスリングをしてもらうために、時々わざと負けるようになったのです。

時には5人がかりでヴォイテクに試合を挑むこともありました。故郷ポーランドを追われ、異国の地で兵士として生きる彼らにとって、それは素晴らしい息抜きであり、気晴らしになりました。

スパイを捕まえる

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ヴォイテクには食べること、遊ぶことの他にもうひとつ好きなことがありました。それはシャワーを浴びることです。ヴォイテクはシャワー室にある紐を引くと水が得られることに気が付き、水浴びを楽しみました。宿営地において水は貴重です。ヴォイテクはひとりでシャワー用の水を使い切ってしまい、兵士たちを困らせることもしばしばでした。

ある日、ヴォイテクがシャワー室に入ると、中に男性がいました。なんとその男性はスパイで、襲撃の下調べをするために宿営地に潜んでいたのです。司令官は感謝のしるしにヴォイテクにビール2本と、その日の午後いっぱいシャワーを自由に使う権利を与えたそうです。

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