2019年6月14日 更新

ソーカル事件の詳細!事件の目的や影響と各所からの批判

ソーカル事件とは、当時ニューヨーク大学の教授であったアラン・ソーカルが起こした事件です。ソーカルが作成したでたらめな内容の論文が学術誌に掲載されたことで大きな話題となりました。類似事件は日本でも起きています。ソーカル事件の詳細を見ていきましょう。

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アラン・ソーカルとジャン・ブリクモンは「知」の欺瞞の中で「われわれの目的はまさしく王様は裸だ(そして、女王様も)と指摘する事だ」と表現しています。「裸の王様」とはアンデルセンにより発表された童話、「皇帝の新しい服」が元になっています。

皇帝の前に現れた仕立て屋が、ばかの目には見えない布地で服を仕立てていると嘘をつきます。しかし自分自身がばかだと思われることを恐れた家来たちが布地が見える振りをしたため皇帝自身も布地が見える振りをして、最終的に裸で服をお披露目するためのパレードをします。

集まった国民すらもばかだと思われないために裸の皇帝を称賛するのです。数学や物理のでたらめな理論や科学用語を濫用した論文が見えない布地であることを意味しているのでしょう。

著書に対する反応

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ソーカル事件や著書に対しては大きな論争が起こりました。批判された思想家たちが科学用語を使用するのは比喩だという反論がありましたが著書の中では比喩ではない文脈で科学用語を使用している人についても紹介しています。

比喩ではない文脈で科学用語を使用していると紹介されたのは精神分析家ジャック・ラカンです。ジャック・ラカンは神経症がトロポジーと関係すると主張したことに対して比喩ではないと発言しています。

しかしアラン・ソーカルの批判はジャック・ラカンの論旨をきちんと踏まえていないという意見も聞かれました。

日本でも多くの論争が勃発

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ソーカル事件については日本でも多くの論争が勃発しました。『「知」の欺瞞』は和訳されたものが出版され、インターネットや大学の講義でも取り上げられるなど話題となったのです。

日本にもポストモダンなどを踏まえた著述を行う学者がいたため批判を受けることになりました。批判はソーカル事件から離れて日本人同士で行われました。批判された人物と批判内容について見ていきましょう。

浅田彰

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浅田彰の著書「構造と力」の記述の一部が評論家で翻訳家の山形浩生らによりアラン・ソーカルと同様のやり方で批判されました。批判を受けた浅田彰は「批評空間」という雑誌の公式ウェブサイト上で返答しています。

これについて数学者の黒木玄が「浅田彰は自分の失敗を認めた方が良かった」と主張して山形浩生らを擁護しました。しかしこの批判に対してさらに大阪大学のトポロジスト菊池和徳が浅田彰の説明に誤りはないと反論したのです。

最終的には批判を始めた山形浩生らが掲示板で自らの間違いを認めました。

仲正昌樹

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思想史家の仲正昌樹は、アラン・ソーカルの主張の真意を理解していない読者や学者によってアラン・ソーカルが批判した思想家たちが過小評価されている状況を批判しました。

アラン・ソーカルの主張の一部は認めながらも「知」の欺瞞で批判の対象になった人物たちに関する論考を執筆していた経緯があるため哲学を理解していない人々が許せなかったのです。

「知」の欺瞞を訳した翻訳家についても、アラン・ソーカルたちが明らかに文脈を見誤っている箇所に訳注をつけていないことに疑問を投げかけています。

山川賢一

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文芸評論家の山川賢一は、仲正昌樹が著作「集中講義日本の現代思想」の中でポストモダンが勢いを失った理由にソーカル事件を取り上げていないことを指摘しました。

仲正昌樹のブログ記事と「集中講義日本の現代思想」に不整合があることから、ソーカル事件の理解がずれておりアラン・ソーカルが批判した思想家たちが過小評価されている状況を批判する立場にはないと揶揄したのです。

仲正昌樹はブログ記事に書いた内容とソーカル事件は因果関係にないとして再反論しました。また、山川賢一に対して哲学史の知識が欠如していると自身のコラム内で批判しています。

ソーカル事件の真似?!ボグダノフ事件

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ソーカル事件と同様に論文の正当性をめぐる論争を巻き起こした事件にボグダノフ事件があります。事件についてはカーソル事件と対比する内容ですが査読制度に大きく影響を与えたことからカーソル事件と合わせて名前が上がる事件です。

論文が正しいと主張するボグダノフ兄弟と論文はでたらめだとする物理学者の意見は真っ向から対立しました。ボグダノフ兄弟によって引き起こされた事件の概要と真相を見ていきましょう。

ボグダノフ事件概要

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ボグダノフ事件を起こしたのは双子の兄弟であるイゴール・ボグダノフとグリシュカ・ボグダノフです。ボグダノフ兄弟の著した理論物理学の論文が複数の科学誌に掲載されましたが、学術誌に論文を査読する能力がないことを試すための悪戯だったのではないかという風説が広まったのです。

論文が物理学に貢献するものなのか、でたらめなのかについて大きな議論が巻き起こりました。兄弟がフランスでテレビショーの司会をしていたこともありメディアでも取り上げられるほど話題になったのです。

ボグダノフ兄弟は論文の内容は正確であると主張しましたが多くの物理学者はでたらめであると結論付けました。論文の内容はビッグバンの際に何が起こったのかを記述する理論についてでした。

ボグダノフ事件の真相

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ボグダノフ事件は逆ソーカル事件とも言われています。アラン・ソーカルとは違い、ボグダノフ兄弟は論文の正当性を主張しており論文を出した分野についての専門性が保証されていたからです。

アラン・ソーカルは論文がでたらめであるという声明を出し、論文を出した分野は専門外でした。ボグダノフ兄弟は最後まで論文の内容はでたらめでないことを主張しましたが2003年以降科学論文を出していません。

メディアでも大きく報道される事件となりましたが多くの物理学者が論文の内容を否定して事件は終結しました。査読制度に影響を与えたことは間違いないでしょう。

第二のソーカル事件!フランスの哲学論文

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第二のソーカル事件と呼ばれる事件が2017年に起きました。アメリカのポートランド州立大学の教授、ピーター・ボグホシアンとジェームズ・リンゼイがイギリスの社会科学ジャーナル「コージェント・ソーシャル・サイエンスィズ」にでたらめな論文を投稿したのです。

ジェンダー学について書かれたでたらめな論文は「コージェント・ソーシャル・サイエンスィズ」にそのまま掲載されました。ソーカル事件では査読制度がありませんでしたが今回は査読制度があったにも関わらず掲載されたのです。

無意味な科学用語を使ったでたらめなものでしたが査読をした人たちはジェンダー学の専門家ではなかったため気づきませんでした。内容をきちんと検証せずにそのまま掲載してしまうことがあるのだと改めて社会に広まったと言えます。

日本での類似事件「STAP細胞騒動」

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